2012年08月15日

『流転の子 最後の皇女・愛新覚羅嫮生』
秘話― 嫮生さんとの縁

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嫮生さんと私 西宮のご自宅で(撮影/山田哲也)



 『流転の子』愛新覚羅嫮生さんとは不思議な縁(えにし)で結ばれていました。それは遥か二十数年前の出来事から始まります。出合いは一本の映画です。

 一九八八年一月、清朝最後の皇帝の数奇な生涯を壮大なスケールで描いた映画『ラストエンペラー』(イタリア・中華人民共和国・イギリス合作)が日本で封切られました。監督はベルナルド・ベルトルッチ。主演ジョン・ローン。八七年度のアカデミー賞で、作品賞、監督賞始め九部門の受賞を達成し、世界に「ラストエンペラー」ブームを巻き起こしました。

 そのころ神戸のTV局でアナウンサーをしていた私は、公開に先立ち行われた一般試写会での司会を担当しました。事前に頂いた映画のパンフレットを何気なくめくっているうちに、ラストエンペラーとの思い出を綴った「素顔の皇帝溥儀」と題した短い文章に目が止まりました。文末には「ふくながこせい 溥儀の実在の姪 神戸在住」の文字。皇帝の姪にあたる愛新覚羅嫮生が、福永嫮生となって、私の暮らす阪神間に居住している!その驚きは鮮烈で、皇帝一族の物語は遥か遠い歴史絵巻から一気に現実の物語となり、真実味を帯びて私の心を強く掴んだのです。

 その後、私は作家として独立し、結婚もしました。当時、西宮に住む嫮生さんとは、全くの偶然なのですが、大きな道路を挟んで直線距離にして百メートルほどの近さで二人の娘を育てながら暮らしていました。けれども、私は決して福永邸には近づきませんでした。当時の私はこの一族の壮大なドラマを書き上げるには若過ぎました。「彼女の物語を書き上げることができる」と、自分の中に強い覚悟ができるまでは、決して彼女に会わないと誓っていたのです。(続く)

 今日は八月十五日。敗戦から六七年。歴史の中で一括りにされ、時代が赴くまま死に向かわされた人々。その魂に寄り添う仕事、語り尽くせぬドラマを背負って生きたひとり一人の声なき声をささやかながら伝えていきたいと願います。
posted by noriko-motooka at 00:00| コラム